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2013/06/07

公開される建物情報<最終回>「春草廬」

公開方法は「聴秋閣」同様、のぞき込むような形での公開となります。
この建物を三溪は、京都三室戸寺から、やはり今回、公開される「月華殿」とともに移築しました。「ともに」というのは、春草盧は三室戸寺にあった時は月華殿に付属した茶室だったからです。三溪は移築の際に切り離し、当初は、隠居後に居住した「白雲邸」に接続させ、奥様用の茶室としました。戦争中は解体され保存されていたようで、戦後、現在の場所で復元しています。この建物の見どころは、なんと言っても「窓」の多さで、以前は「九窓亭」と呼ばれていたそうです。
「春草廬」という名称は三溪園に移築されてから命名されています。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、「春草廬」という名の建物は、このほか2棟あります。
一つは、お茶で有名な京都「福寿園」の宇治茶工房にあります。そこにある春草盧は、三溪が三室戸寺から移築する際に、現地に同じ形のものを新築したそうで、それが現在、福寿園宇治茶工房にあるものです。ただし、コンクリートの2階建て建物内にありますので、三溪園の春草盧よりきれいだと思います。
もう一つは、東京国立博物館の庭園にあり、三溪園の春草盧と形が違います。この建物は三溪が臨春閣を大阪から移築した際に一緒に購入したものです。三溪園内では建てられず保存されていたものを三溪は、茶友であった耳庵(松永安左ヱ門)に贈り、その後、耳庵が東京国立博物館に寄付したものです。この建物こそ、元祖「春草廬」です。というのは、この建物には「春草廬」と書かれた扁額もあったそうなので、移築以前の大阪にあった時から「春草廬」と呼ばれていたこととなるからです。

今回、このシリーズが最後となりますので、建物公開からは少し話題はそれますが、事務屋の勝手な見解におつきあいください。
明治39年に三溪は正門に「遊覧御随意」という看板を掲げ、自分の庭、三溪園を公開したのですが、そのような発想はどこから来たのでしょう。




<看板部分の拡大です「遊覧御随意 三溪園」と書かれています>

当時の新聞 貿易新報で三溪は次のように述べています。

「三溪の土地は勿論予の所有たるに相違なきも其明媚なる自然の風景は別に創造主の領域に属し予の私有には非ざる也(中略)
物好奇の笑ひをも顧みず此園を起こしたる次第にして申す迄もなく天の領域たる自然の風景を利用して其の大部分を構成したるものなれば此れを公開するは寧しろ当然の義務」

これは完成し、公開する際のいわば「公式見解」です。そもそも、庭園を造成するときにすでに公開を考えていたと思います。そうでなければ、このような大規模な庭園となっていないはずです。
公開を前提とする庭園を造成するに至った要因として考えられるのが、次の2点です。
故郷、岐阜の篠ヶ谷園(現 梅林公園)と西洋の公園文化のふたつが強く影響したのではないでしょうか。
●篠ヶ谷園(現 梅林公園)
この公園は、もと加納藩の武士であった篠田祐助氏が、明治14年に一般公開しています。
三溪の父親青木久衛の日記にはたびたび、岐阜の町に出かけたことが記されています。公園は岐阜の繁華街からもそれほど遠くないので、訪れたのではないでしょうか。もしかすると三溪を伴って。その際、父親が梅林公園を褒め称えれば、少年三溪の脳裏にすり込まれたはずです。
●西洋の公園文化
横浜が開港されてからまもなく、居留外国人から公園用地提供の申し入れがあり、すぐではなかったようですが、土地が貸与され明治3年、最初の西洋式公園である山手公園がつくられます。
そのような、西洋の「公園文化」に触れ、主旨は近いものでも、形式はいわば「和風公園」として、現在の三溪園のエリア分けでいう外苑部分を公開する構想に影響を与えたのではないのでしょうか。
次の絵はがきは開園から、それほど年を経てないものと考えらます。そこには、所謂「ベンチ」が写っており、公園の雰囲気が感じられます。今の三溪園にこのようなベンチを設置したら、きっと批判が出るでしょう。





最終回となりましたが、公開される建物で、月華殿、旧天瑞寺寿塔覆堂、天授院は、シリーズで紹介できませんでした。残念ですが、実際に見ていただくのが一番と考えています。見ていただく前、または、直後に情報を得るとより理解が深まると思いますので、以前紹介した西先生の本とは別に「三溪園100周年 原三溪の描いた風景」という本を紹介します。この本は建物はもちろん、三溪園全体の歴史も記載されており、総合情報を提供していますので、理解を深める一助となることは間違いありません。三溪記念館で販売されていますでご購入いただければ幸いです。



最後にあたり、9回にわたるこのシリーズにお付き合いいただいた方々に感謝申し上げるとともに、期間中のご来園を心よりお待ち申し上げます。