三溪園通信
俳句を味わい、嗜む
2023.03.06
「ひとはかり浮く香煎(こうせん)や白湯(さゆ)の秋」
大正4(1915)年の夏に三溪園を訪れた芥川龍之介は園内の初音(はつね)茶屋で受けたもてなしの風情をこんな一句に遺した。六角形をした茶屋の屋根裏中央からは茶釜が吊るされ沸かしたお湯を使って用意されたお茶は当時誰もが自由に飲むことができた。
戦前までは年間を通して行われていたこの接待も、現在では観梅会の期間に再現される。感染症の拡大以降はお茶の提供を控えているが、付近の臥竜梅の古木との取り合わせは句が詠まれた100年前と変わらぬ風情が漂う。
園内でこのほか俳句に触れられるスポットには、俳人・高浜虚子が昭和八(1933)年に来園し句会を開いた際に詠まれた句を刻んだ碑がある。また、正門の藤棚には来園者自らが自慢の句を寄せられる投句箱も設置されている。
毎年園内の三溪記念館で開催される俳句展ではこの中から選ばれた優秀作品が現在活躍中の日本画家による挿絵を添えて紹介される。中村汀女など著名俳人の自作自書の作品も併せて展示されるのも魅力だ。
春に向かうこれからの季節、俳句を味わい、そして嗜みつつ、園内を散策してみるのはいかがだろうか。
写真:大正時代頃の初音茶屋
当時の茶釜は現在も使われている。
(221212広報よこはま中区版寄稿)